非認知能力とは何か

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2022/02/12:初回投稿
2022/02/24:1回目更新
2022/03/10:2回目更新
2022/04/13:最終更新

非認知能力、という言葉が話題になっています。

教育関係の方からよく聞くようになってきたなと感じていますが、自分の中ではまだよく理解できていないと思える概念です。

ということで、非認知能力とは何か、ちょっと本でも読みながらリサーチをば。まず、これらの本をとっかかりにして調べてみました。

認知能力との対比で理解できる?

紹介した左側の本、非認知能力の本によると、非認知能力とは次のように説明されています。

「非認知能力」とは、そのような心理的機能(認知能力)ではないもの、思考や感情や行動について個々人が持つパターンのようなものを指し示していると言えます。(P2)
※()内は筆者追記

「非」という言葉がついているので、認知ではないものを「非」認知というということでしょうか。僕の頭の中では次のベン図のようなイメージ。ちなみに、認知能力とは知能検査で測定されるような知能や、いわゆる学力が相当するとのこと。

ただ、これだとまだちょっとわかりにくいですね。

右側の本である、学力の経済学では非認知能力を次のように説明しています。

IQや学力テストで計測される認知能力とは違い、「忍耐力がある」とか、「社会性がある」とか、「意欲的である」といった、人間の気質や性格的な特徴のようなものを指します(P86)

2つの定義を合わせると、非認知能力とはどのようなものなのか、なんとなく理解はできたように思えます。

ただ、言葉のイメージなんでしょうか、「認知能力」なら(何かを)認知できる能力、つまり課題を認知して正確に処理する能力というイメージはできるのですが、「非認知能力」といったら、認知されないことを実行する能力みたいなイメージがあって、上で説明されている「忍耐力」等は、測定尺度とかもあって一応認知はできる能力な気がして、自分の中での理解が「??」となってしまいます。

ということで、言葉から受けるイメージがわかりにくい気もしますが、認知能力とは知能や学力のこと、非認知能力は忍耐力や社会性、物事に対する意欲などその個人の特性やパターンのようなものだと理解しておけば大きく外すことはなさそうです。なんとなく、認知能力はアウトプットするDoing、非認知能力はDoingを支えるBeingのようなものと言えるでしょうか。

15の心理特性(非認知能力)

さてそんな非認知能力ですが、非認知能力の本では具体的に15の要素が上げられています。

  1. 誠実性
  2. グリット(困難な目標への情熱と粘り強さ)
  3. 自己制御・自己コントロール
  4. 好奇心
  5. 批判的思考
  6. 楽観性
  7. 時間的展望
  8. 情動知能
  9. 感情調整
  10. 共感性
  11. 自尊感情
  12. セルフ・コンパッション
  13. マインドフルネス
  14. レジリエンス
  15. エゴ・レジリエンス

なんとなくイメージのつく概念もあるし、カタカナではよくわからない概念もありますね。

もう一つ、学力の経済学では、次の9要素が非認知能力の具体例として取り上げられています。

  1. 自己認識
  2. 意欲
  3. 忍耐力
  4. 自制心
  5. メタ認知ストラテジー
  6. 社会的適正
  7. 回復力と対処能力
  8. 創造性
  9. 性格的な特性

要素の数は違いますが、どちらも似たような概念を取り扱っていることがわかります。

非認知能力の何が良いのか

それでは、そんな非認知能力ですが、なぜ今の時代に取り沙汰されるようになっているのでしょうか。結論から言うと非認知能力が高いことで、総合的に良い人生を送ることができるようになるからでしょう。

学力の経済学には、シカゴ大学のヘックマン教授らが行ったペリー幼稚園の実験が紹介されています。ペリー幼稚園の実験によると、子どもたちの非認知能力は、学歴、年収、雇用などの面で長期的に大きな影響をもつことがわかりました。幼稚園の時期において「質の高い就学前教育」を行った子どもと、行わなかった子どもを40年に渡り調査を続けたところ、「質の高い就学前教育」を行った子どもの方が、19歳時点の高校卒業率や、40歳時点の所得額が高く、逮捕率が低い結果になったというのです。

長期的にこのような実験が行われていたことに対して驚きですが、改めて非認知能力を思い出してみると、非認知能力とは自己認識、意欲、忍耐力、自制心といったものでした。確かにこれらを幼少時に育むことができると、人生の様々な選択肢において良いものを選ぶことができそうです。人生は小さな選択肢の積み重ねですが、一つ一つの選択肢で良いものを選び続けていれば、より良い人生になることは確かに真っ当な結果じゃないでしょうか。

非認知能力は後天的に伸ばすことができる

それならばということで、最近教育分野で「非認知能力」についてスポットライトがあたっているわけですが、「非認知能力」が注目を浴びている理由はそれだけではなさそうです。

学歴や所得に結びつくのは何も非認知能力だけではなく、IQ等の「認知能力」などもあるわけですが、認知能力は親から子への遺伝の影響も強く、実はその説明率が50%から、場合によっては80%を超えることもあるようです。(参考文献:敷島 2001 認知能力と学習)つまり、認知能力というのは本人の努力や周囲の環境といったものが大きく影響しない場合もあるということですね。

その一方で、非認知能力は環境によって変化する部分が大きいということ。親から子どもへ遺伝の説明率は50%前後であり、ものによっては50%を下回る特性もあるようです。このような後天的に介入しやすいという非認知能力の特性も、最近の教育分野でスポットライトがあたっている理由なのではないでしょうか。

重要な非認知能力もありそう

ただ、非認知能力は先に示したように、数が膨大にあります。上で挙げた例だけでも24個の非認知能力があります。

全ての非認知能力をまんべんなく伸ばすのは困難なことが目に見えてわかるので、学力の経済学では、たくさんの非認知能力の中から、ある条件によって、大切なものを2つピックアップしていました。ピックアップの条件は「良い結果につながる」「教育やトレーニングによって伸ばせる」の2つです。至極当然な条件ですが、この条件によって非認知能力をピックアップすると次の2つが挙げられるとのことでした。

  1. 自制心
  2. やり抜く力

さて、この2つの非認知能力は、良い結果につながるのでしょうか。そして教育やトレーニングで伸ばすことができるのでしょうか。下記で見ていきます。

 

自制心について

まず自制心ですが、実用日本語表現辞典によると次のように定義されています。

自分自身の感情や欲望などをうまく抑えたりコントロールしたりする気持ちや精神力

これにはマシュマロ実験という有名な実験エピソードがあります。マシュマロ実験とは、簡単に言うと「机においてあるマシュマロを食べてはだめよ?」といって、子どもを部屋で一人っきりにしてどれだけ我慢できるか?という実験です。マシュマロ実験によると、マシュマロを食べずに我慢できた子と、そうでない子は、長期的に見たときにマシュマロを我慢した子のほうが問題行動が少なく、理性的な振る舞いができて、学業成績も良かったというのです。これはまさに「自制心」をどれだけ持っているかという話であり、自制心という非認知能力が高い子ども程、長期的に成功しやすいという主張に繋がっているようです。

ここで面白いことは自制心とは気合や根性ではないということです。教育分野で有名な上智大学の奈須教授によると、実際マシュマロテストでおやつを先延ばしにできたこは、様々な戦略を用いていたとのことです。例えば、手で顔を覆っておやつを見ないようにする、歌を歌って気を紛らわせる等の工夫をしていたようです。これはつまり、いろんな工夫で自制心を発揮すればいいわけであって、それは教育やトレーニングで伸ばせることができる、ということなのですね。(参考文献:「資質・能力」と学びのメカニズム 奈須2017)

ただ、マシュマロ実験には反論もあったりするようですが、深追いするとまた別の話題に入ってしまいそうなので、いったん本記事ではそういう主張もあるという記載だけに留めておこうと思います。

やり抜く力について

次にやり抜く力についてです。学力の経済学では、ペンシルバニア大学のダックワース准教授のTEDトークを紹介して、やり抜く力のことを次のように説明しています。

非常に遠い先にあるゴールに向けて、興味を失わず、努力し続けることができる気質(P91付近)

これが高い人は、様々な状況で成功する確率が高いことが研究でわかったということですが、直感的には研究結果がなくても合意する内容ですよね。あと、やり抜く力は「才能と相関のないこと」も明らかになっているそうです。才能という持って生まれたものと関係ない!というのは多くの人にとって「やり抜く力」を高めるための希望になりますね。

非認知能力のトレーニングについて

以上、「自制心」と「やり抜く力」に関しては、将来の成功と関係している上に、才能に依存していない、つまり工夫や努力というトレーニングで高めることができる、ということがわかりました。では、実際にどうトレーニングすればよいのでしょうか。

結論からいうと、有効なトレーニングはリフレクションの実践に他ならないと思います。

学力の経済学では、トレーニングの方法として、自制心は筋トレのように継続と反復をしながら徐々に自制心の筋肉がつくもの、やり抜く力は「やればできる!」という心の持ちようが大切だと書いています。

これはリフレクションの実践そのものだと思います。例えばある日常で自制心を発揮できずに意図しない結果になったとしましょう。リフレクションの実践とは「今回はできなかったけど、次回はどうすれば自制心を発揮することができるか?」を考えることです。今回は発揮できなかったけど、次に自制心を発揮するために何をどう捉え直せばいいだろう?どういう工夫をすればいいだろう?をリフレクションします。そして、次の実践に望みます。これはリフレクションによる経験学習サイクルの実践そのものです。

また、やり抜く力の「やればできる!」という心の持ちようは、リフレクションによる成功体験でつくることができます。例えば、上の例で、リフレクションの結果、自制心をうまく発揮できたとしましょう。そうすると「あれ、自分、やればできるじゃん!ちゃんと考えて、行動したらうまくいったじゃん!」と思うわけですよね。これは自分はやればできる!という成功体験とそれに応じた自己効力感の獲得です。これを様々な体験で繰り返すことにより、総合的な自己効力感が獲得でき、やればできる!の心の持ちようが獲得されるものなのではないでしょうか。

つまり、非認知能力はリフレクションで伸ばすことができる。というか、リフレクションは非認知能力のトレーニングそのものである。そんなことを、リサーチしながら思った次第でした。

まとめ

ということで、長々と非認知能力について、ざっくりリサーチしてきました。

細かい部分はまだまだ掘り下げられると思いますが、おおよそ非認知能力とはなんぞや?というのは理解できる情報が揃ったかと思います。

非認知能力は「良い人生につながる」「教育やトレーニングで伸ばすこともできる」という、万人に開かれているなんとも美味しい能力です。

本記事で深堀りした「自制心」や「やり抜く力」の他にも「好奇心」や「批判的思考」等の様々な種類があるので、個別に色々と深堀していきたいなと思う次第です。それやるといつまでも記事が終わらないので、記事としてはこのへんで終わろうかと思います。

※ちなみに、好奇心については、以前ここでまとめているので、参考になるかもしれません。

好奇心の3タイプ、そして重要な知的好奇心をどう呼び起こすのか

2016.05.10
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参考文献

本記事で参照した書籍、論文です。

非認知能力

学力の経済学

認知能力と学習

 

「資質・能力」と学びのメカニズム