未来を担う小学生はリフレクションカードでどのような体験をし、変化していくのか:実践研究会Vol.7開催報告

先日第7回リフレクション実践研究会を開催しました。

リフレクション実践研究会は、2016年3月から開催している実践家のための研究会です。

企業内でリフレクションに関連する活動を行っている実践者たちが集まり、それぞれの活動を発表しディスカッションします。

今回は初の小学校における事例として、約1年間にわたるリフレクションの取り組みを発表してもらいました。

参加者の感想にもありましたが、今回のゲストの取り組みは本当に頭が下がります。本当に子供達のことを考え、一生懸命実践されたのだと思います。こんな先生に出会えた子供たちは幸せだと思います。

さて、それではさっそく今回の報告を始めましょう。今回の流れは次の通りです。

  • なぜ小学生にリフレクションが必要なのか
  • 1年間のリフレクションの取り組み。子供たちは何を体験したのか
  • 学級運営など、その他のポイントも大事
  • やってみて見えてきたこと、今後の課題

それでは濃密な2時間30分のイベント、レポート開始してきましょう!

なぜ小学生にリフレクションが必要なのか

今回は実践研究会の参加者がなぜ小学校でリフレクションが大切だと思っているのかそこの共有から始めました。

ポストイットにひとり1人がどう考えているの効果を書いて書き出します。

参加の皆さんはひとり1人の文脈でどのような想いをもっているのでしょうか。

結果は次のとおり。

付箋に書かれた内容をざっくりまとめてみると次のような感じです。

  • 自分の行いを正すきっかけとして必要なのではないか
  • 日記みたいなもので癖づけしておくとよさそう
  • やらされ感を脱して、自ら選ぶ感覚を持って欲しい
  • 客観的に見れていないことを、他者の視点で促せないか
  • 小学生も多忙なので振り返る時間が必要
  • 親や先生がもっている正解を探すことではなく、自分事に落とし込むトレーニングとして必要
  • 家庭や学校では自分の考えて自分の意見を述べる癖がつかないような気がするから
  • 気づきを学びを言語化する必要がある
  • 自分の言葉で語ることが大切だから

一人ひとりの思いがよく分かりますね。

印象的だなと思ったのは、「子供は親や先生がもっている正解を探している」というフレーズです。

これの印象は、もっと年代が上の高校生や大学生もしくは社会人を見ててもそう感じていて、日本社会といったら大きすぎますが、もしかして皆小さい頃から他人が求める正解を探すことを頑張っているのでは、、なんてことを思いました。

他人が求めることではなく、自分の頭で考えたことを実行する。そのためには、まず自分の気持ちを知り、言葉にし、表現してみる。それが大事なんだと大人たち(参加者達)は子供に伝えたいのだと思いました。(ただし、この考え方には最後にどんでん返し?があります笑)

ということで、皆さんが小学校リフレクションに対して考えていることを共有して、いよいよゲストの発表です。

■ゲストの発表の全体像

それではメインコンテンツ、ゲスト実践発表です。

今回の実践の概要は次の通り。

実施対象:小学校5年生(2017年5月現在は6年生)
実施人数:40名
実施期間:2016年5月〜
実施内容:リフレクションカードKidsを使った、振り返りの場作り

ゲストは、まず今回の取り組みが始まったキッカケから話をしてくれました。

きっかけは今話題のアクティブラーニングです。文部科学省が学習指導要領にアクティブラーニングという言葉を取り入れたことが話題になりましたが、一方的に知識を得る授業はもう古い。主体的で対話的な学びをし、生涯にわたって能動的に学び続ける姿勢を身につけることが、これからの授業に求められることだ、ということが言われています。

ゲストはそのアクティブラーニングにおいて、学びに向かう力にはリフレクションが大切であると考えています。

経験したこと、感じていることを言葉にし、自ら気付きを得る力が、主体的で対話的な学びを支援すると考えています。

そこで、リフレクションカードを使って、子供たちにリフレクションをしてもらったらどうなるのか?そんなところから実践は始まりました。

■最初は小グループから始めてみた

ということで実践を始めてみたゲストですが最初からクラス全員を対象にしたわけではありません。

まずは子供たちの反応を見てみようと、いけそうな子供たちを選抜し4人だけ試験的に実施してみました。するとどうでしょう、子供達からは次のような感想が出たのでした。

  • 帰る途中ずっと話がとまりませんでした。
  • とても仲良くなった。
  • 真剣な話をするってたのしい
  • 気付けることができた

そして子供たちがは次はいつするの??と次の開催を楽しみにしてくれたというのです!

これだけでゲストはいけると判断し、リフレクションカードの取り組みをクラス全体で行うため準備をしていくことにしました。

開発者としては、子供たちの感想がすごく嬉しい(笑)子供たちが楽しく話をしながら一緒に帰っている様子を想像するとにやけます(笑)

ちなみに開催の様子はこんな感じ。

■リフレクション対象を広げたら、失敗してしまった

勢いにのったゲストは、実施対象ひろげて新しいグループでリフレクションをやってみます。

今回も子供たちがリフレクションを楽しんでくれる!

そう思っていたのですが、実施結果は想定とは異なるものになりました。そう、失敗してしまったのです。

2組目で起きたことは、例えば次のようなことでした。

  • 話し合いが全く噛み合わない
  • 発言者が同じ発言ばかりをループしてしまう
  • お互いに質問ができない

1組目はあんなに楽しそう話し合いをしていたのに、どうしたのか?

その理由を考えたゲストは、グループの組み合わせに原因があるのではと考えました。

というのは実は、2組目に選んだ子供は、考える力の高い子供。普段から深いことを考えているのだから、リフレクションワークをしたときによいことを話してくれるだろうと期待したのです。

しかしながら、1人では深いことを考えるその子ですが、グループになってしまうと、ほかのことの関係性もあり考えてることを言葉にできなかったのです。

これは意外な盲点で、普段ひとりで内省ができている子をいれたら、リフレクションワークが上手くいくわけではなかったということです。

子供たちには子供たち同士の相性がある。言われてみれば当然です。

そこでゲストは相性の良いグループ編成とは?ということを、子供たちと一緒に考えました。

子供たちはあの子は火だから…、僕は水だから…というような感じで、それぞれの相性を考えてグループ編成を行いました。

ゲストとしては「ん?それで大丈夫?」と思うこともあったようですが、子供たちの言葉を信じて、4人1組のグループ編成を決定。加えて、各グループに話し合いをリードできる人がいるように10人のファシリテーターの育成を行いました。

コレで準備はバッチリ。

2016年5月に始めた実践は、この時点で2016年12月になっていました。

本格的な取り組みは2017年1月より開始。

実践は、クラス全員で毎週1時間、金曜日の学活の時間に実施したそうです。これを2017年1月から2017年3月まで3カ月間やってみた。

子供たちはその3ヶ月でどのような体験をしたのでしょうか。

■子供たちの体験

結論から示すと、子供たちはリフレクションワークをとてもポジティブな体験として捉えてくれました。

3ヶ月、8回の実践を得て出してもらったアンケートには、

リフレクションをしてよかった:37名
リフレクションをしないほうがよかった:3名

という結果でした。

流石に全員がやってよかった!という感想を持つまでには至りませんでしたが、クラスの90%以上がやってよかったとの感想を言ってくれました。

では、子供たちはどんな体験をして、リフレクションにポジティブな印象を持つようになったのでしょうか。それを調べるため、ゲストは実施毎に感想を書いてもらっていました。第1回から第8回まで、一人ひとりの子供がどんな体験をしたのか、感想には沢山の情報が埋まっています。

今回の研究会では、第3回の感想と、第7回の感想を取り出して、分析結果を発表しました。

■第3回の感想から見えてきたこと

まず、第3回の感想から。

これも結論から示すと、第3回の時点では子供たちはリフレクションに対して戸惑っていたようです。
例えば次のようなことが、子供たちの感想ノートから示唆されました。

  • 的外れな質問が多い
  • 話が脱線してしまう
  • イライラする
  • 何を質問すればいいのかわからない

子供たちは、話し合いを頑張ろうとはしているのですが、何が問題なのか、どうすればいいのか、ということがわからなかったようです。

もちろん、これと反対にポジティブな感想も多かったのですが、マイナス?の感想もある程度の数が散見され、第3回の時点ではまだリフレクションワークに対して戸惑う要素があったことがわかります。

ゲストは、これはリフレクションワークを導入する初期の特徴であり、ここから教師による補助が必要だと話てくれました。
※実は第3回までは、ゲストは子供たちにリフレクションに対して特に介入をしていたわけではありませんでした。

■教師による補助

子供たちの戸惑いをサポートするため、ゲストは2つの視点から、子供たちに補助を行ってみました。

1つは「質問について」の補助です。

話し合いがうまく進んだときにはどんな質問をしているのか、つながる質問とつながらない質問は何が違うのか、そのようなことを子供たちと一緒に考えました。

また、もう1つは「沈黙」についても補助を行いました。

子供たちはワークの最中に話が途切れて沈黙の時間が来ることを恐れていました。その沈黙の時間は本当にいけないことなのか?沈黙の時間にはどういう意味があるの?ということを子供達と一緒に考えました。

どちらの補助も子供たちなりに気づいたことがあるらしく、ここから子供たちの話し合いに変化が見られていきました。

■第7回目の感想

では補助後の子供たちは、リフレクションワークにどのような感想を持ったのでしょうか。感想を上げてみましょう。補助が入ってからしばらく時間がたった後である第7回の感想をみてみましょう。

  • 話し合いが深まった
  • いい脱線だった
  • 自分が考えていない質問を受けた
  • 自分の気持ちを話せた
  • 相手のことがわかった
  • 緊張や焦りを感じた

例えばこのような感想が子供たちからあがってきました。

狙い通り、子供たちは徐々に質問をうまくすることができるようになり、それにより話し合いを深めることができるようになりました。中には「この話はいい脱線だった」という感想もあり、話を意図的に広げるような質問をする子供も増えてきました。

特にゲストにとって印象的だったのはある子の「自分の気持ちが話せた」という感想だったということです。

ゲストいわく、その子は引っ込み思案で自分のことを素直に話せない子供でした。自分なりのこだわりを持ち、深い部分まで考えているのに、それをお友達に表現することに対して、受け入れられないのではないかと恐れを抱いていました。でも、思い切って自分の考えていることを友達に表現すると友達はそれを受け入れてくれました。それによりその子は、自分に自信が持てるようになり、今ではクラスで自分のこだわりを思いっきり表現できるようになったらしいです。

もちろん、まだまだうまくいかない部分も多く、悪い部分としては、質問に対して緊張感や焦りを感じたという感想も出てきました。子供たちは徐々に良い質問ができるようになってきたのですが、今度は良い質問をしないといけないというプレッシャーを感じるようになってきているようです。

それでも第7回はポジティブな感想が多く、子供たちの間で自分の気持ちを話すこと、友達に質問をすることの意味と楽しさを感じる始めていることがわかりました。

■全体を通して

以上、全8回の実践を通して子供達は

  • リフレクションに対してポジティブな印象を持つようになり
  • 実際に日々の生活でも変化がみられるようになりました

例えば、日記に書く内容が変わってきたり、授業での学び合いの様子が変わってきたことが、ゲストの実体験としてあるようです。

子供たちの学び合いの変化において、僕が聞いて印象的だったのは、跳び箱の話です。体育の授業の出来事なんですが、ある子が跳び箱が上手い他の子の様子を観察して、そこから何かしらのコツを学び取ろうとしていたという話をきいたのです。これはまさにリフレクションワークで他人から学ぶという視点が育ち、それを他の場面でも転用しようとした試みであると考えます。こうやって、日常場面に転用し始めるのは非常に素晴らしいですね。

リフレクションワークを実践したことで、子供たちの体験を振り返る質が確実に高まっているとゲストは話をしてくれました。

このように全体的にはうまくいっているリフレクションの取り組みですが、もちろんまだまだ改善するべきところがあります。

例えばまだリフレクショに対して良い印象を持っていない子供たちにどうアプローチしていくのか。質問することに対しての緊張感や焦りをどう軽減していくのか。さらに深い話し合いができるため能力性格が異なる子たちをどのように組み合わせすべきなのか、など様々な課題が残っています。

これからは今回見えてきた課題にアプローチし、さらなる実践を深めていきたいとゲストは話をしてくれました。

今後の実践が非常に楽しみです。

■まとめ

以上、小学校で1年間のリフレクションカードによる取り組みを行った結果の報告でした。

今回の実践を通して、小学生がリフレクションカードを使って対話することには、やはり大きな意味がありそうです。

僕は大人になってよいリフレクションができている人には「リフレクション原体験」というものがあると思っています。リフレクション原体験は次の記事の9番目に書いていることですが、ざっくり簡単に言えば、子供時代におけるリフレクションの成功体験です。

実践から見えてきたリフレクション上手な人の10の特徴

2017.04.05

このリフレクション原体験を早いうちに持つことが、リフレクティブな視点を身につけるため大切なことなんじゃないかなと感じています。

そういう意味では、今回ワークを通してリフレクション原体験を得た子供達もある程度いるとは思っていて、子供たちがもう少し成長したとき、小学校のこの体験がどうつながっているのか、話を聞いてみるのが楽しみです。

当日の実践研究会では他にも面白い話が出ました。

全部の内容をブログに書く事は出来ないのですが、出てきたトピックを2点だけ追記しておきます。

・今回のような取り組みをするためには、そもそもの土台となる学級運営をしっかりとしておく必要がある。ゲストはプロジェクトアドベンチャーなどを以前から取り入れて学級活動をしており、子供たちはリフレクションワークを実践するための土台が出来ていた。

・子供たちは、自分の発表を楽しみにしていた。こんなことを友達に話したい!と思っていた様子。でも、感想に書くことは、自分についての気付きより、他人の発表を聞いての気付きの方が多かった。理解の順番は他者から始まるのではないか。その後グループに対する理解が進み、最後に自分の理解になるのかもしれない。他人を知るためにはまず自分を知る必要があるという言葉とは逆の順番かもしれない。

以上、第7回リフレクション実践研究会の報告記事でした。

小学校リフレクションには非常に大きな可能性があります。引き続き実践すると共に、今後はルーブリック評価の基準なども作成してみようと思います。

秋には本取り組みを学会でも発表予定で、どんな反応があるか楽しみです。

本取り組みは、また年度末にでも継続した結果をお知らせするイベントを開催しようと思います。