スキルの4段階とプログラム設計のポイント

私たちは学校や会社の研修等でいろんなスキルを学びます。ビジネスマナー、問題解決の手法、リーダーシップの取り方など、さまざまなスキルがありますが、そんなスキルには4つの段階があると言われると「なるほどー」と結構納得することができます。

4つの段階とは次の図の通りで、それぞれこうなっているというのです。

人材育成に携わっている身としては、このスキルの4段階を知っておくと便利な場面も多く、特にプログラム設計では「それを伝えるために何をすればいいか?」を考えるために有用です。

今回はスキルの4段階について簡単に意見をまとめておこうと思います。

1. 知る

まず、最初は「知る」の段階です。「知る」は、学習者がまっさらな状態から、特定のスキルや知識の存在を認識する段階のことを言います。ここでは、情報を単純に知識として取り入れることが中心となります。

研修プログラムをつくるとき、この段階ではプログラム設計者が、学習者に伝えるために念入りな準備はしなくてもよいと考えます。重要なのは、学習者がその情報やスキルの存在を認識することです。この段階の学習者は初めて触れる情報も多いため、過度に詳細な説明を避け、基本的な知識や概念をイメージで簡単に伝えることがポイントです。なんとなく「ふーん、そんなものか」と思うくらいでOKです。

研修プログラムの設計としては最も簡単な段階がこの「知る」の段階です。ただ、あまりにも簡潔な説明だと不安に思う学習者もいますので、そのときは「詳しくはあとで説明しますね」と伝えてあげることで、「詳細な説明は後であるのだな!」と安心してもらうことは設計者ができる工夫でしょう。

2. わかる

次は「わかる」の段階です。「わかる」段階とは、学習者が知った情報を整理し、自分の中でその意味や全体像を把握する段階です。

「わかる」の段階のプログラム設計としては、まずは具体的な例やエピソードを示して、学習者がスキルを自分ごととして捉えやすいようにすることがポイントでしょう。例えば、名刺交換の方法を学んだ新入社員に対して「実際のビジネスシーンではこうやって渡すんだよ」と具体例を見せてあげることが「わかる」を促進させます。

また、この段階では、そのスキルや知識に対していくつかのポイントを伝えてあげることも大切です。全体イメージを持った上で、そのポイントはアレとコレとソレだな!と自分の中でポイントを把握できるようになれば、「わかる」の段階に達したと考えてよいと思います。

3. できる

次は「できる」の段階です。「できる」の段階は、理解したスキルを実際に使えるようになる段階です。

この段階に至るには実際にアウトプットして行動してみることが大切です。先程の「わかる」の段階では実際にスキルを使えるようになったとは限りません。「わかった」ものを「やって」みることで、「できる」の段階に到達することができます。

例えば、名刺の渡し方を「わかって」いる学習者が、実際に名刺を渡す場面に直面したときに、基本を忘れたり緊張したりしてスムーズにできないということはよくあることです。「わかる」と「できる」の間には大きなギャップがあるわけでして、このギャップを埋めるためには、学習者自身が実際に手を動かす練習が不可欠なのですね。

プログラム設計としては、お手本を入れ込んだり、ロールプレイを組み入れるとよいでしょう。名刺交換でいうなら、ビジネスシーンを想定した名刺交換のロールプレイを行い、その後、講師や他の参加者からフィードバックを受ける時間をつくるようなことが対応します。特に他の参加者からのフィードバックは学習者を深く揺さぶることができますので、適切なフィードバックが行われるようにプログラムを設計することはポイントでしょう。

4. 教える

最後は「教える」の段階です。「教える」はその名の通り、学習者が自分の習得したスキルを他者に教えることができる状態を指します。

「わかる」と「できる」には大きなギャップがありましたが、「できる」と「教える」にも大きなギャップがあると思います。

これにはよく野球の長嶋茂雄さんの例えが出てきますが、長嶋さんは天才肌で自分では飛んでくる玉を打つことができるけど、玉の打ち方を他人に教えることは苦手だという話があります。というのは、長嶋さんが他人に玉の打ち方を教えると「ばーっと来た玉を、ガツンと狙って打つんだよ!」と、こういう説明になるというのです笑(逸話なので真偽はわかりませんが)

これは完全に感覚派の教え方であって、「ガツンと打つ」と言われても、それを教えられた人がガツンと打てるようになるとは限りません。「教える」の段階にいくには、バッティングのプロセスをもっと細かく言語化して、誰でもわかるように言語として伝える必要があるわけです。

「教える」ことは、「できる」こととは異なり、スキルを自動的に行うだけでなく、それを言語化し、他者に理解させる能力を要求します。そのためには、まず自分自身がスキルに熟達し、それを自動化して行えるようにします。そして、自動で行動しているときに「この瞬間自分は何を考えているのか?」「なぜ、その行動をとるのか?」「効果を最大化するため何がポイントなのか?」などを深く考え、そのプロセスを言葉で説明できるようにすることが重要なわけですね。

教えるためのプログラム設計は、それこそ教育学部というものがあるように、教えるための学問があるくらい、奥深いものだと思いますが、実際のプログラム設計に活用するのであれば、授業や講義を実際にロールプレイしてみて、どうしたらもっと伝わるか?のディスカッションをするのが一番カンタンで無難なプログラムだと思います。

教える過程で得られるフィードバックや質問は、教える側の理解をさらに深め、スキルの再確認や新たな発見にもつながります。上司や先輩の皆様は、教えることをめんどくさがらず、自分の学びの一環としてぜひ積極的にやっていただければと思います。

まとめ

以上、スキルの成長には、「知る」「わかる」「できる」「教える」という4つの段階が存在するという話でした。研修プログラムをつくるときには、受講者がどの段階に達すればいいのか?を考えたうえで、段階ごとに適切な方法とツールを選び、学習者が順を追って成長できるようにサポートすることが大切です。

また、この4段階はスキルに対する自分自身の理解度確認にも活用できそうですね。自分のスキルは4段階のどこにあるのかを知ることで、知っている段階なのか、わかっている段階なのかを考えることで、もっと上にレベルアップしよう!と意識付けることもできそう!と思った次第です。